PVD・DLCコーティング
PVD処理は、大別すると、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングに分けることができます。その中でも、セラミックスの薄膜を生成する方法として、1964年、D.M.Mattoxによって提唱されたイオンプレーティングは、その後、多くの研究者によって多くの改良がなされ、実用化に至りました。セラミックスの薄膜は、金属材料にない、耐摩耗性、耐熱性、耐食性を有し、金属材料にコーティングすることにより、新しい機能を得ることが容易になりました。
そのブームは、1980年代に切削工具への適用から始まりました。そして、金型、自動車機構部品、食品・医療機器等、幅広く展開され、究極のダイヤモンド・コーティングの登場となり、次世代のCBN、Al2O3膜へ導かれています。
特徴
1.HCD法について
イオンプレーティングの代表的な方法として、アーク放電法、HCD法が挙げられますが、ここではHCD法について説明します。
- 高真空引きした真空炉にArガスを注入し、直流電圧を掛け、Ar+イオンとe-に電離する。
- 基板を+にチャージするとe-が基板に衝突し、そのとき発生する熱エネルギーで、基板を昇温。(400度から500度)マイナスの場合は、Ar+が衝突。
- 基板を-にチャージし、Ar+で表面をエッチング清掃する。
- EB-GUNでTiを溶融する。反応ガスとして、N2を注入する。 (プラズマ中で各々がイオン化する)
- Ti+とN+を吸着し基板上でTiN膜を生成する。
2.各膜種の比較
膜種 | TiN | TiCN | TiAlN | CrN | DLC |
---|---|---|---|---|---|
外観色 | ゴールド (黄金色) |
ダークグレイ、 ゴールド |
バイオレット (濃紫色) |
シルバー (銀白色) |
ブラック (光沢のある黒色) |
硬度 (Hmv) |
約2,300 | 約2,800 | 約2,300以上 | 約1,700以上 | 約3,500~5,000 |
膜厚 (μm) |
約2~4 | 約2~4 | 約2~4 | 約2~5 | 約1~2 |
最高使用温度 | 約600度 | 約400度 | 約800度 | 約700度 | 約250度以下 |
摩擦係数 (SUJ2=1) |
0.4 | 0.3 | 0.4 | 0.5 | 0.1 |
密着強度 (N) |
65以上 | 60以上 | 80以上 | 55以上 | 40以上 |
耐摩耗性 | ○ | ◎(冷間) | ◎ | ○(湿間) | ◎ |
耐食性 | ○ | × | ○ | ◎ | ○ |
耐酸化性 | ○ | △ | ◎ | ◎ | × |
摩擦係数 | ○ | ○ | ○ | △ | ◎ |
耐衝撃性 | ◎ | ○ | ○ | ◎ | × |
TiN=窒化チタン TiCN=炭化窒化チタン TiAlN=チタン・アルミ・ナイトライド
CrN=窒化クロム DLC=Diamond Like Carbon
◎:優れている ○:優れている △:可 ×:条件による
密着強度は、スクラッチテスターで測定、母材の材質、硬さ、表面粗さに依存して数値が変化するため、参考値とする。一般的には、DIN50103/1:HRC圧痕法を採用する。
※加工材料(プレス材料・成形樹脂)による膜種選択詳細は、技術営業にご確認ください。
3.膜種別の用途例
TiN(窒化チタン)
用途 | 内容 |
---|---|
切削工具 | 超硬・HSS工具の耐摩耗性向上、高速切削化溶着防止・切削表面粗さの改善 |
順送プレス金型 | 打抜き・曲げ・絞り金型の耐摩耗性の向上 |
プラ型 | 離型性・耐溶着防止・ガラス繊維の耐摩耗性の向上・パーティングラインの保護・メルトフローの改善 |
ダイキャスト金型 | メルトの溶着防止、ヒートチェック防止 |
精密機械部品 | 耐摩耗性の向上、装飾、摩擦係数の低減 |
TiCN(炭化窒化チタン)
用途 | 内容 |
---|---|
切削工具 | TiN以上の耐摩耗性が必要な場合(特にSU系) Al合金の切削(溶着防止) |
順送プレス金型 | 鋼:1,000N以上/m2以上 SUS系のプレス金型・Al合金のプレス金型・銅合金プレス金型・FRP打抜き型 |
TiAlN(チタン・アルミ・ナイトライド)
用途 | 内容 |
---|---|
切削工具 | 高硬度材料の切削(HRC40以上) 高速切削工具(超硬エンドミル・インサート等) |
ダイキャスト金型 | メルトの溶着防止・ヒートチェック防止 |
CrN(窒化クロム)
用途 | 内容 |
---|---|
切削工具 | 純銅の切削・インコネル |
プレス金型 | 純銅のプレス・フォーミング・マンドレル加工等 |
プラ型 | 耐食性の改善(腐食ガスが発生する樹脂成形) |
ダイキャスト金型 | メルトの溶着防止・ヒートチェック防止 |
精密機械部品 | 自動車部品(ピストンリング等)・精密SUSバルブ・ 耐食、耐摩耗を必要とする部品、医療機器 |
DLC(Diamond Like Carbon)
用途 | 内容 |
---|---|
切削工具 | Al合金の切削・裁断刃(溶着防止) |
半導体製造金型 | LSIパッケージのリードフレームの曲げ加工(ハンダ溶着防止) |
アルミ缶加工工具、 VTRアルミドラム |
Al溶着防止・耐摩耗性の向上 |
精密機械部品 | 低摩擦係数を要求される部品。 潤滑材の使用を極力避ける場合。 |
4.耐久性データ例
コーティング耐久性比較 | DLCと未処理品の比較 | PVC成形金型の耐久性(メンテまで) |
金型:SKH51順送プレス 加工材料:SUS304 t=1.0 |
LSI – リードフレーム曲げ加工 ハンダ密着防止(寿命5~20倍) |
溶着・耐食性の改善 |
5.注意事項 ~より良い品質をご提供するためのお願い~
- IPの場合は、処理温度約500度で寸法変化しない熱処理を行っていること。DLCの場合は、250℃(200℃)
- 表面は、研削面もしくが研磨面で、膜厚以下の表面粗さが望ましい。(0.8S以下が望ましい)
- 表面状態は、研磨焼け、酸化膜、錆等のない銀白色の面であること。
- 内径、凹部は約直径(幅)と同じ深さしかコーティングできない。
- 硬質クロムメッキ・ホモ処理・燐酸塩処理等の被服表面処理が施されていないこと。(Ni-Pメッキ除く)
- ガス軟窒化等の窒化が施されている場合は、最表面の化合物層が除去されているものが望ましい。(当社:PSN+WPC等の処理を推奨)
- 金型、部品は、単品にばらすこと。
- ロー付け品の場合は、処理温度でロー剤が溶融しないこと。
- コーティング必要範囲とコーティング不可の範囲を明確に指示すること。
- 非磁性材料の場合は、密着強度が低下しますので、事前打ち合わせ必要。
PVD・DLCコーティングについてのお問い合わせはこちらから。
適応材料
- ダイス鋼 (SKD11、SKD61、SLD8、DC53等)
- 高速度鋼 (SKH系、HAP系、ASP系、等)
- プレハードン鋼 (HPM系、NAK系等)
- ステンレス鋼 (STAVAX、HPM38、PD555等)
- 超硬
- サーメット
- 純銅、銅合金(Be-Cu合金等)
- Ti合金 (Ti-6Al-4V等)
- アルミ合金 (DLC)
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